私たちは日々、心身の成長(発達)とともに、言葉を覚え、社会のルールを学び、周囲と協調しながら生活しています。しかし、その成長の過程で、脳の働き方に何らかの「偏り」が生じ、社会生活や仕事において大きな困難を感じる状態を「発達障害」と呼びます。
発達障害は、本人の努力や親のしつけの問題ではなく、生まれ持った脳機能の特性によるものです。当院では、その特性を「治すべき病気」として捉えるのではなく、ご本人が自分らしく、社会でスムーズに過ごしていくための「個別の対策」を一緒に見つけていくことを大切にしています。
発達障害とは
発達障害は、脳内の異なる働きを持つ部位(前頭葉や海馬、小脳など)がうまく連携しにくいことで起こると考えられています。そのため、周囲が当たり前にできることが苦手だったり、逆に特定の分野で驚異的な能力を発揮したりすることがあります。
大切なのは、ご本人の性格や怠慢ではないという点です。特性を正しく理解し、環境を整えることで、抱えている「生きづらさ」は大きく軽減できます。
代表的な特性のタイプ
発達障害にはいくつかの種類があり、複数の特性を併せ持っていることも少なくありません。
自閉スペクトラム症(ASD)
かつて自閉症やアスペルガー症候群と呼ばれていたタイプです。対人関係の構築やコミュニケーションに独自のスタイルがあり、強いこだわりや感覚の過敏さ(光・音などへの反応)が見られるのが特徴です。大人になると、職場の「空気を読む」ことや「本音と建前の理解」に苦労し、そこから二次的にうつ病などを発症するケースもあります。
注意欠如・多動症(ADHD)
「集中力が続かない(不注意)」「じっとしていられない(多動)」「考える前に動いてしまう(衝動性)」といった特徴があります。成人期には多動性は落ち着くことが多いですが、仕事でのケアレスミスや期限の遅れ、物の紛失といった不注意の特性が残り、社会人になって初めて自覚される方も多くいらっしゃいます。
学習障害(LD / 限局性学習症)
全般的な知的発達に遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習能力だけが、極端に困難な状態を指します。努力不足と誤解されやすいですが、専門的な学習支援や補助ツールの活用が必要な特性です。
診断へのステップ
当院では、医学的な基準(DSM-5等)に基づき、以下のプロセスを経て総合的に判断いたします。
- 丁寧な問診
- 現在の困りごとはもちろん、幼少期の様子や学校・職場での状況を詳しく伺います。
- 多角的な検査
- 脳の状態を確認するための画像検査(CT・MRI)や脳波検査、認知の偏りを把握するための知能検査や心理検査を、必要に応じて実施します。
- 総合的診断
- 検査結果と生活状況を照らし合わせ、一人ひとりの特性を明らかにします。
より良い生活のためのサポート
発達障害に「完治」という概念はありませんが、特性に合わせた「環境調整」と「スキル習得」で、生活の質は飛躍的に向上します。
- 環境の調整
- 集中しやすいようにデスク周りの刺激を減らす、指示は口頭だけでなく図解やリストで共有するなど、視覚的なアプローチを取り入れます。
- 薬物療法(主にADHD)
- 不注意や衝動性が強く、仕事や生活に大きな支障がある場合には、脳内の神経伝達物質を整えるお薬(メチルフェニデート、アトモキセチンなど)で症状をコントロールすることもあります。
- ご家族・周囲への支援
- ご本人だけでなく、周囲の方が特性を理解し、適切な接し方を学ぶ(ペアレントトレーニングなど)ことも、良好な関係を築くために非常に重要です。